新型コロナウイルスに対するワクチンの開発に世界中が注力していますが、
通常、企業等が新しい医薬品を開発しそれを市場に出すまでにはどのくらいの年月と費用がかかるのか。
医薬品メーカーに勤める社員の観点からお伝えします。
医薬品開発
医薬品開発にかかる期間と費用
医薬品の開発には長い年月と莫大な費用がかかります。
新薬の探索研究、動物を用いた毒性試験、人への臨床試験に加えて、医薬品を各製造所で製造し、それを販売するためには、当局から医薬品の有効性・安全性のみならずその製造方法や製造所等がきちんとしたものであると承認される必要があります。
企業は承認申請書を提出して、各国の当局が申請書の審査を行います。さらに当局の査察官による現地査察が実施される場合があります。
無事に承認が下りた後も、今度は国から薬価をつけてもらう必要があります。
このように、医薬品開発から販売に至る過程は長く険しいのです。
また、開発に要する費用は何百、何千億単位と高額です。よって1つの国だけの承認を経て販売するのでは開発コストの採算が取れないわけです。
よって開発側としてはグローバルでの販売を目的に、JP (日), US (米), EU (欧)といった 3極同時開発を余儀なくされます。
How long does it take to develop a pharmaceutical drug?
On average, it takes at least ten years for a new medicine to complete the journey from initial discovery to the marketplace, with clinical trials alone taking six to seven years on average. The average cost to research and develop each successful drug is estimated to be $2.6 billion.
新薬が初期の創薬(薬の種を見つける)から市場に出るまでの道のりは、平均して少なくとも10年かかり、臨床試験だけで平均6〜7年かかります。成功した各医薬品の研究開発にかかる平均費用は26億ドルと推定されています(引用記事)
もちろん途中で開発を断念しなければならないケースもあり、中断の可能性も考慮した上で開発にかかる時間と必要を考案しなければなりません。
医薬品開発の各ステップ
引用: FDA Drug Approval Process - Drugs.com
FDAとは、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)の略称で、日本の厚生労働省にあたる公的機関です。
米国内で医薬品などを販売するには、このFDAに対して事前に適切な通知と登録が必要であり、FDAからの許可を取得しなければなりません。
The U.S. Food and Drug Administration's (FDA's) Center for Drug Evaluation and Research (CDER) is a science-led organization in charge of overseeing the drug approval process before a drug is marketed.
医薬品を初めてヒトに投与する前(治験の前)に、動物を用いた医薬品の毒性試験を実施して、医薬品の安全性を十分に確かめなければなりません。
またヒトへの投与を許可してもらうためには、Investigational New Drug (IND) という治験届をFDAに提出して、新薬治験開始を申請します。
In the manufacturer's early phases of drug discovery (preclinical research) they are synthesizing and screening a drug candidate for toxicity in animals before the medicine moves on to human trials. The sponsor files an Investigational New Drug (IND) Application that details specifics such as chemistry, manufacturing and the initial plans for human testing.
また治験は、大きく分けて、第I相臨床試験(Phase I)、第II相臨床試験(Phase II)、第III相臨床試験(Phase III)の3つからなります。
- Phase 1: About 20 to 80 healthy volunteers to establish a drug's safety and profile, and takes about 1 year. Safety, metabolism and excretion of the drug are also emphasized. 第I相試験は健康な成人を対象として、治験薬の安全性及び薬物の体内動態について確認するための試験。
- Phase 2: Roughly 100 to 300 patient volunteers to assess the drug's effectiveness in those with a specific condition or disease. This phase runs about 2 years. Groups of similar patients may receive the actual drug compared to a placebo (inactive pill) or other active drug to determine if the drug has an effect. Safety and side effects are reviewed. 第II相試験は、第I相試験で安全性が確認された容量の範囲で比較的少数な患者を対象とし、主に治験薬の安全性及び有効性・用法・用量を調べるための試験。医師にも患者にも被験薬かプラセボ(偽薬)か分からないようにする試験を採用する場合も見られる。
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Phase 3: Typically, several thousand patients are monitored in clinics and hospitals to carefully determine effectiveness and identify further side effects. Different types and age ranges of patients are evaluated. The manufacturer may look at different doses as well as the experimental drug in combination with other treatments. This phase runs about about 3 years on average.
第III相試験は、多数の患者に対して薬剤を投与し、第Ⅱ相試験よりも詳細な情報を集め、実際の治療に近い形での効果と安全性を確認する。他の薬剤との併用を評価する場合がある。
医薬品の承認成功確率
2006-2015年までのデータによると、企業がNew Drug Application (NDA)* や Biologic License Application (BLA)* を提出した後にFDAが医薬品を承認する確率は85.3%でした。Phase Iまで上がった新薬が承認される確率はたったの9.6%になります。
The probability of FDA approval after submitting a New Drug Application (NDA) or Biologic License Application (BLA), taking into account re-submissions, was 85.3% (n=1,050). Multiplying these individual phase components to obtain the compound probability of progressing from Phase I to U.S. FDA approval (LOA) reveals that only 9.6% (n=9,985) of drug development programs successfully make it to market.
*NDA (新薬申請書(New Drug Application)), BLA(生物学的製剤承認申請書(Biologic License Application )), BLAは生物学的製剤の申請書。第III相臨床試験データを含めた医薬品承認のための申請書になる。
BLAs relate to biological products while NDAs generally pertain to traditional small molecule drugs.
引用:
COVID19 ワクチンの開発状況
このように、通常、承認を得るまでに何年もの開発期間を要しますが、新型コロナウイルスに対するワクチンに関しては前例のないペースで開発が進められています。
世界保健機関(WHO)が挙げているワクチン候補は170以上に上っています。
すでにいくつかの候補が臨床試験の最終段階に入っていますが、専門家たちは2021年の実用化は厳しいと認識しています。
ワクチンの有効性・安全性の確認や一定の品質を担保しつつ、集団免疫のために大量生産が可能かどうかの評価を行う必要があり、開発には年単位の期間がやはりかかります。
According to the World Health Organization, there are currently almost 170 COVID-19 vaccines in development, though many experts believe a vaccine won't be widely available until 2021.
しかし、日本政府が国民の人数分供給を受けることで合意をしている英アストラゼネカ社と米ファイザー社が開発しているワクチンは第III相試験に入っており、試験は最終段階を迎えているようです。これらのワクチンは、元々他の感染症を狙って開発していたものを転用しているので開発期間の短縮化につながっています。